顎関節症(正式名 顎機能障害)は主に、顎を動かすと音が鳴る、顎が痛い、お口が開かない、
この3つの症状を主症状とする症候群のことです。
【1】顎を動かすと音が鳴る お口を開けたり閉じたりする時に「ポキッ」「ジャリジャリ」と音が出る症状のことを言います。
【2】顎が痛い お食事の時や、お口を開けたり閉じたり前後左右に顎を動かした時に顎に痛みが出る症状を言います。
【3】お口が開かない お口を開けたり閉じたり前後左右に顎を動かすことができないことを言います。
顎機能障害者は年々増加傾向にあって、患者数やその重要性からう蝕や歯周病に次ぐ第3の歯科疾患とも言われています。
病院を訪れる患者は女性が多く、年齢層は各世代に分布しているが、10歳代の後半から20歳代の後半にかけてピークがあるといわれています。
症状としては通常、上記の主要症状を単独または複数もちますが、このほかに随伴症状として頭痛、肩こり、手のしびれ、難聴などを訴えることもあります。
顎関節症の原因は、いくつかの寄与因子が複合して起こります。
【1】解剖要因:顎関節や周囲の筋肉の構造的脆弱性
【2】咬合要因:不良な咬合関係
【3】精神的要因:精神的緊張、不安、抑うつ
【4】外傷要因:咬みちがい、打撲、転倒、交通外傷
【5】行動要因
①日常的な習癖
TCH(上下歯列接触癖)、頬杖、受話器の肩ばさみ、携帯電話の操作、下顎前突癖、爪噛み、筆記具噛み、うつぶせ
②食事
硬固物咀嚼、ガム噛み、片咀嚼
③就寝時
ブラキシズム(クレンチング、グラインディング)、睡眠不足、高い枕や固い枕の使用、就寝時の姿勢、手枕や腕枕
④スポーツ
コンタクトスポーツ、球技スポーツ、ウィンタースポーツ、スキューバダイビング
⑤音楽
楽器演奏、歌唱(カラオケ)、発声練習
⑥社会生活
緊張する仕事、PC作業、精密作業、重量物運搬
顎機能障害の治療の歴史を紐解いてみると、1980年代からMRIを筆頭に画像診断技術が発達することで関節円板(軟骨)の形態異常、位置異常が明確になりました。
この関節円板の形態異常や位置異常が顎機能障害の様々な病態を引き起こしている原因の一つと考えられ、様々な治療が行われてきました。
その治療方法は、可逆的治療(元に戻せる治療)から不可逆的治療(元に戻せない治療)まで多岐にわたっております。
外科療法、咬合再構成、スプリント療法、運動療法、温罨法、冷罨法、薬物療法など様々です。
その中でも不可逆的治療による後遺症に悩む患者さんが数多く見受けられるようになりました。
これを受けてAmerican Association for Dental Research(AADR)が調査、研究に動き出し、2010年3月3日に顎機能障害基本声明を発表いたしました。
その内容は、「日本補綴学会」「AADR」のホームページを参照して頂ければ明記されていますが、その中でも「顎機能障害の患者さんの自然経過を調べた研究により、顎機能障害は時間経過とともに改善し治癒していく疾患である」ことが示唆されています。
顎関節症は、再燃することはあっても年々減少していく「セルフリミッティング(自己治癒)」な疾患ということになります。
ということから顎機能障害の治療は、正当化できる特定の証拠がない限り第一選択は保存療法、可逆的治療ということになります。